人事評価の本質について
以下、いくつかの視点で評価について本質的なお話をさせていただきます。
1.そもそも論として、会社において評価の仕組みは必要なのか?
- 人は、「評価の仕組みの有る・無し」や「意識する・しない」等にかかわらず他人を評価しているものです。あの人は「感じの良い人だ」とか「嫌なタイプの人だなぁ~」みたいな具合です。
- では、会社において評価の仕組みを作らずに、例えば昇給や賞与等の部下査定を管理職に委ねたらどうなるでしょうか? それぞれの評価者の視点がバラバラになるでしょうし、自分の価値観や好き嫌いで評価が行われるリスクが高まるでしょう。もしそのような形で評価が行われた場合、評価される社員はどのように感じるでしょうか? おそらくは多くの社員から不満が噴出してくるでしょうし、会社や上司のことを信頼しなくなることでしょう。ということで、公正な評価や適正な査定を行うためには、まずは最低限、社内に評価の仕組みを作ることが必要だということです。
- また、評価制度を整備するもう一つの目的・意義についてもお話しておきます。
- それは「社員の能力開発や職務パフォーマンスレベルの向上」をはかるためです。会社が社員に対して目指してほしい職務遂行の期待基準、業務推進のあるべき姿や日常行動の取り方・レベルを提示することで社員の気づきや自助努力を促すとともに、管理職に対しても部下の評価や指導の目線を提示することで社員の能力開発や職務遂行パフォーマンスの向上につなげていく、という考え方です。
- 以上の観点から、従業員数10人未満で家族経営をされている会社などは別として、一定以上の従業員規模の会社であれば人事評価の仕組みは必要不可欠といえるでしょうし、社員の処遇も評価システムの運用を通して行っていくことが大切です。
2.人事評価の対象は「ヒトとしての特性」なのか、それとも「ヒトが担当する仕事の遂行状況・結果」なのか?
- 一般的に、コンサルタントも含めた人事の専門家の多くは、「昇給・賞与の査定につなげる人事評価では、そのヒトの人間性を評価するのではなく、仕事のパフォーマンス、すなわち仕事のプロセスと結果に焦点を当てて評価すればよい、ヒトとしての「モノの考え方」や「人格」などを評価してはいけない」という風に言います。
- それに関しては、主に以下のようなことが理由として考えられます。
- 彼らが人事の勉強を始めた頃にその教科書・バイブルとして読む人事関連のテキスト(※かつて日本において職能資格制度の考え方を体系化したと評される楠田丘氏が執筆された書籍類)の影響を多分に受けている
- 人間性や人格等も含めて評価すると、仕事の出来・不出来だけでなく、評価者の価値観や〝好き嫌い〟みたいなものも混在してしまう危険性が高くなる
- そういった背景で、彼らは「担当職務の取り組み状況や成果・業績に限定した形で評価するのが正しい考え方だ」という風に言うわけです。 確かにこの考え方は決して間違いではないと思います。
- ただ、ここで皆さんには冷静に「職業人として何が成功に結び付くのか?」という原理・原則を見つめてほしいのです。
- 例えば、いくら頭の回転が速く能力的に秀でた社員であっても、〝モノの考え方〟が間違っていると不正や社会悪に手を染める人も出てきます。中古車の販売・買い取りを行っていた旧・BIGMOTORのケースなどはその典型例です。また、部下を束ねてリーダーとして引っ張っていく管理職ポストへ登用するか否かを判断する際には、「モノの考え方や人間性・人格が優れているか?」ということが極めて重要となります。単にプレーヤーとしての力量だけで適格性を測ることは好ましくありません。
- 以上の視点から、私は「人事評価の対象には〝ヒト〟と〝仕事パフォーマンス〟の双方を含めて実施することが望ましい」と考えています。もっとも、モノの考え方や人格・人間性に焦点を当てた評価は、どちらかといえば「アセスメント」に近い概念・範疇になるのかもしれませんが…。
- 最後もう一点付け加えていえば、実際の運用においては、社員のおかれている立場・役割等を睨んで評価視点を変えていく必要もあるので、事はそう単純ではないということもお伝えしておきます。
3.評価の視点や基準は精緻に設定すればするほど良いのか?
- 〝精緻に設定する〟というのは、簡単にいえば、以下の①~②などを踏まえて、評価の項目や視点・基準を設定するということになります。当然ながら、評価シートの種類もかなり多くなります。
- 社員が担当する職務・職種
- 社員がおかれている役職・役責(※ 下記[注])
[注]❷に関してですが、等級制度を導入している会社で等級格付けと役職・役責がほぼ連動している場合には「社員の格付け等級」と言い換えても可!
- 確かに、仕事を評価するといった側面や評価制度に対する社員からの信頼度を高めていくためには、ある程度精緻に設計していくことが重要となるでしょう。
- しかしながら、実態として会社の中では以下のようなことがごく当たり前に行われているはずです。
- 現場での評価結果を受けて最終調整する立場の役員クラスにおいては、往々にして総合的な視点で部下の評価や序列をつけたがる傾向あり、評価システム上で算定された総合点による評価ランク(※SABCDのようなイメージ)をやたらと調整したがる。
- その気持ちは私も十分理解できますが、現場から離れた役員が評価ランクを修正しすぎてしまうと、精緻に作り上げた評価項目や評価項目ごとのウエイト付けは意味をなさなくなります!
- また、賞与前においては、通常最終調整された後の評価ランクに基づいて社員個別の賞与シミュレーションを行い、その内容を役員会や役員部長会に参加しているメンバーが検証・チェックすることになるわけですが、個別の賞与試算額を見た上で例外的に支給額を調整するのではなく、かなりの割合(※20%~40%程度に及ぶケースもある)で社員個別の支給額調整をしている。
- これほどの高い割合で社員個別の金額調整しなければならないということは、本質的に考えると、大元の賞与や評価の仕組みを手直しすることの方が筋なのではないかと思います!
- 以上の点から言えることは、いくら精緻に評価の仕組みを作り上げたとしても、また現場管理職が真面目に人事評価を行ったとしても、結局のところ役員クラスのメンバーが最終の調整・判断をするわけですから、仕組み通りには運用されにくいということです。
- 結果的に、被評価者⇔評価者(現場管理職)⇔役員評価との間で目線や見方のズレが大きくなりますので、評価する立場の現場管理職や評価される一般社員ともども、評価の結果に対して納得する状況は作れないということなのです。特に、「取り組み姿勢・行動」や「発揮能力」などの定性的な評価部分はズレが大きくなりがちですし、営業成績などの定量業績面に関しても、「社員一人ひとりに与えられる目標設定値が公正に設定されていない」だとか「担当する商品群・エリア等の違いによって達成率やグロスの売上・粗利等の数値結果が高くなりやすい者とそうでない者とが出てくる」といった指摘が現場社員からなされることも多々あるため、社員を納得させる仕組み作りや運用は並大抵のことではないというのが実態なのです。
- もちろん、会社として、評価の運用ができるだけ公正に行われるように努力していくことは大切であり、そのための取り組みとして「評価者研修会」を実施したり、被評価者である社員に対して評価説明会などを開催している会社はかなりの数に上っています。こういった取り組みは、「やらないよりはやった方が良い」のですが、それでも社員全員を納得させることは難しいといえるでしょう。
- これらの考察によって、評価制度の整備や運用を行っていく際には、以下の点が重要だということをご理解いただきたいのです。
- 社員の納得感という観点では、〝70~80%社員が受け入れてくれればOK〟と考える。→ ある程度の割り切りが必要!
- 社員を納得させるためには、制度の仕組みだけに頼るのでなく、上司としての「部下との信頼関係づくり」や「部下に対する説明・マネジメントの良し悪し」が鍵を握る。→ 要するに、〝 役員も含めた管理職層以上の人間性・マネジメント力 が問われる〟ということであり、仕組みのせいにしてはダメ。
- 経営陣は、評価の仕組みや運用に関して、経営方針や事業戦略、取り巻く内外の環境が変われば柔軟に見直していくことを日ごろから社員へメッセージとして伝えていく。
- 評価者となる現場管理職クラスと評価の最終調整を担う役員クラスとの間で、評価の価値観や目線が大きくずれないように普段から意見交換する機会を設ける。
★ まとめ
- 結局のところ、評価制度の運用がうまくいくか否かは、「仕組みの良し悪しだけでなく、社員⇔現場管理職⇔役員との間で評価に対する目線がシンクロしているかどうかにかかっている」といえます。